巨人軍1998年の総括

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 1998年の巨人軍は、昨年のチャンピオンチームのヤクルトに3連勝し、開幕5連勝。チームは絶好調。しかし、4番松井は絶不調という全く相反する状態が共存する形で始まった。思いかえせば、今年の巨人軍はすべてこのアンバランスが作用していたように思う。
★ 開幕4番の松井は4月、未曾有の絶不調であったが、3番清原は絶好調だった。
★ 期待されていた河原・槙原が開幕に間に合わなかった。その代わりといっては何だが大物ルーキー高橋由伸が開幕スタメンを果たし、レギュラープレーヤーを慌てさせていた。
★ 仁志が非常に良い活躍をしていたが、4月14日に手首を骨折し、戦線を離脱せざるを得なかった。
★ オリックスから木田と交換で移籍の野村が、抑えとして非常に期待されていたが、一人相撲のシーンが目立ち、信頼するストッパーがシーズン当初から不在であった。
★ 趙が先発で予想外の活躍を見せたが、若干の期待を持っていたヒルマンが全く使えなかった。
 ざっと挙げてもこれだけのアンバランスを抱えていた巨人軍は、案の定、開幕5連勝のあと苦戦し、4月を10勝11敗で負け越すといった事態になっていた。開幕の1ヶ月でこれだけの誤算に囲まれながらも、その後は、5割以上をキープし、6月には首位に立つ場面もあった。アンバランスが良い方に回転し、誰かが怪我をしても誰かがその穴を埋める役を果たしていた。加えて、中継ぎ抑えの軟弱さを打線がカバーしていたことも事実であった。

 しかし、いつまでもうまく行くはずもなく、6月後半には清原・石井・元木・川相が相次いで戦列を離れ、苦しい試合を余儀なくされていた。7月上旬の星勘定は5割を維持するのがやっとで、ゲンの良い北海道シリーズも1試合で1敗(1試合は中止)で終わった。チームの運が悪い方向に転がり始めた。
 そして、7月14・15・16日の対横浜3連戦。
★ 7月14日。7−3でリードされていた9回表。佐々木から松井のタイムリーで追いついたのだが、その裏、野村がピリッとせずサヨナラ負け。しかし佐々木から点を取ったことで、決して悪い負け方ではなかった。惜敗であった。
★ 7月15日。昨日の勢いを引き継いで打線が奮起。序盤で7点のリード。先発も桑田で誰しも「今日は楽勝だな」と思ったことだろう。しかし桑田がじりじり失点し、降板。試合は乱打戦の様相を呈してきた。事実、ベイスターズは神懸り的な追い上げを見せた。しかし、高橋由伸の11号3ランが出るに至って「決まったな」と思われた。ところが結果は12対13で巨人のサヨナラ負け。「なぜだ〜?」と叫びたくなる試合だった。
 MKTがホームランを打ち、先発が桑田で7点のリード。負ける要素がないのに結果はサヨナラ負け。私はこのとき不吉にも「今年は横浜かも...」と思ってしまった。それくらいこの日の試合はナインにとってもファンにとっても痛い痛い敗戦であった。
★ 7月16日。雨天中止。恵みの雨に感じられた。「一矢報いよう」というよりも「今の横浜は止められない」という気持ちの方が強かった。
 ここが、今シーズンの1つ目の分岐点であった気がする。この3連戦の前まで、7月の月間成績は4勝4敗の五分。通算成績も40勝34敗だったのに、オールスターを挟んで、7月の月間成績は7勝12敗と5つの借金を抱え、通算成績も43勝42敗の貯金1つになってしまった。
 加えて、オールスター初出場の趙が、オールスター戦で腕に違和感を覚え戦列を離れた。貯金があと5つは計算できるピッチャーの離脱は厳しいものがあった。
 しかし、それだけでは終わらなかった。7月31日のガルベスの暴挙。やはり貯金があと3つは計算できるピッチャーが離脱せざるを得なかった。
 2本のローテーションピッチャーを失い、巨人ファンにとっては悪夢の7月であった。

 その後、混乱のまま片肺飛行を続け、巨人軍は8月を戦っていた。
 その中でも特に8月21・22・23日の対広島3連戦は痛かった。シーズン2つ目の分岐点であったと言えると思う。
★ 8月21日。4−0で完封ペースを続けていた岡島だったが、7回裏、四球を機に連打を浴び、代わった西山がとどめのホームランを金本に食らった。その後も中継ぎ河野岡田が崩れ、4−8で敗戦。岡島が好投していただけに、突如の乱れは痛かった。
★ 続く22日。入来が粘り強いピッチング。3−3から9回表に1点勝越し、いよいよストッパー槙原登場。しかしその裏1点を献上し、試合は延長戦に。10回裏、イケイケの金本にサヨナラ2ランを浴び、玉砕。勝利がそこまで見えていての敗戦はあまりに痛かった。
★ 23日は打撃戦の末、11−8でかろうじて勝たせてもらったという感じであった。
 なぜ、この3連戦が分岐点であったかというと、まず3連勝(貯金3)できるはずの試合経過だったのに、1勝2敗(借金1)であったこと。下位チームへの取りこぼしは優勝を目差すチームにとっては、絶対にしてはいけないこと。
 それと、この3連戦の間、横浜スタジアムでは中日−横浜が戦っており、ホシの潰し合いをしていたのである。シーズン終盤に入るこの時期、首位とのゲーム差を一気に縮めるチャンスを逃してしまった。
 その直後、2位中日との3連戦は1勝2敗。8月の月間成績は14勝12敗と7月の借金を埋めるには程遠い結果であった。

 9月2日には一時的にBクラス(4位)に落ちた。
 これを境に巨人軍は試合とは別の所でマスコミの関心を集めた。「長嶋監督が辞意」「長嶋退団、次期監督に森氏」などの見出しがスポーツ誌を賑わし、その波紋も大きな物となっていった。
 この波紋に後押しされるように、チームは連勝を重ねた。
 6連勝を達成し、最後の望みを懸けた中日・横浜5連戦というときに、3つ目の分岐点を迎えた。
 「長嶋監督来季続投決定!」
 この発表が、「長嶋監督の最後の花道を飾ろう」と一丸となっていたチームの気を緩めてしまったように思う。なぜ、あと1週間待てなかったのか。発表は、この5連戦を全力で戦ったあとでも良かったのではないだろうか?
 案の定、チームは5連戦を1勝4敗。最後の希望も潰えた。9月は15勝6敗と良く戦った。しかし、その6敗のうちの3敗が横浜戦、2敗が中日戦(1敗は阪神戦)。これでは貯金は増やせても、上位に上がっていくことはできない。

 10月1日。横浜が75勝目を挙げ、逆に巨人は61敗目を喫し、巨人軍の1998年は終わりを告げた。10月3日、最終戦を白星で飾り、最終成績は73勝62敗であった。 率直な感想は、「今年はこの厳しい環境の中で善戦したなぁ」であった。これだけアンバランスなチームを率いての73勝は立派な数字だと思う。それ以上に魅力あるチームへと脱皮しつつあると思う。 

 投手陣では、最後まで戦えなかったが、趙の活躍。97年ドラフト組の3人、特に入来と三沢は来季以降に期待が持てる。左腕の3人(岡島・小野・ルーキー平松)も万全ではないが、目途はついた。斎藤雅樹も何か新しいものをつかんだ様だし、未完の大器・西山の開花はこれからの巨人にとって大きいものになるだろう。不安材料は、来季以降の槙原の処遇であろう。先発に戻るのか、ストッパーに専念するのかは微妙なところで、チームの戦略に大きな影響を与えるだろう。
 逆に今季の投手陣でのA級戦犯はヒルマン・野村。B級戦犯としてはガルベスであると私は思う。理由はいまさら記することでもないが、反省して欲しい。
 一方、野手では、月並みではあるが高橋由伸の加入が大きかった。新人で3割19本75打点は凄すぎるし、守備走塁でもすばらしいものを見せてくれている。外野の守備センス・送球などは非凡なものがある。来季以降は当然クリーンアップを打つことになるが、是非3番を打って欲しい。松井も念願のタイトルを手に入れ、来季こそ不動の4番バッターになって欲しい。元木・仁志・清水もまだ課題はあるものの、シーズンを通してスタメンを張れるだけの選手になってきた。ただ、清水の肩が少し弱い気がするが。特筆すべきことは、キャッチャー村田真一の復活である。ここ数年、杉山らに押されていたが、今年は「やっぱりキャッチャーは村田だよなぁ」と思わされることが何度となくあった。来年も活躍して欲しい。
 おしなべて平均以上であった野手の中で、もう少しがんばって欲しかった選手が一人いる。清原選手である。まず第1にまだ31才なのに体にガタが来ているところ。私の中ではあと5年は活躍してもらう予定なので、来年は120試合以上をスタメンフル出場して欲しい。第2に数字的に物足りなすぎる。本来ならば、松井と本塁打・打点のタイトルを争わなければいけないだけの選手なのに、23本80打点は少なすぎる。とりあえず来季は新人のときに記録した3割1厘31本を目標に切磋琢磨して欲しい。おのずとタイトルが見えてくるはずである。老け込んで欲しくない。

 その中で来季に期待できない選手もいます。今季限りでユニフォームを脱ぐ選手たちです。
☆ 吉村禎章選手。17年間ご苦労様です。あの事故がなければ、確実に巨人の4番に座っていた選手です。私は3番吉村・4番原・5番駒田の活躍を夢見ていました。今となっては叶わぬ夢ですが...。一日も早く巨人軍の指導者として戻ってきて欲しいと思います。
☆ 井上真二選手。14年間ご苦労様です。89年の日本シリーズ第7戦。ウィニングボールを捕ったのは52番でした。パンチ力のあるバッティングがいつ見れるのかと期待していましたので、非常に残念です。
☆ 緒方耕一選手。12年間ご苦労様です。巨人の1番といえば、柴田・松本・そして緒方です。内外野をこなせる俊足として90年と93年に盗塁王に輝きました。ここ数年腰痛などで元気がなかったので、心配していたのですが...限界は自分にしかわからないものですから。それでも残念で仕方ないです。
☆ 川口和久選手。18年間お疲れ様です。広島の川口の印象が強いです。今でもあの速い荒球は曲者だと思います。
☆ 金石昭人選手。20年間お疲れ様です。巨人在籍は1年でしたので、余り良い思い出はありませんが。
 このほか、人知れずユニフォームを脱がなければいけない選手も大勢います。がんばって欲しいです。 

 以上が私の視点から見た1998年の巨人軍の姿です。
 内容的に厳しく書いたところもあります。しかし理由はあろうとも、現実としてペナントレースを制することはできなかった。
 プロ野球選手として現状に満足せず、個々のレベルを高めて欲しい。おのずとチームのレベルが上がり、選手の給料も跳ね上がるのです。「MKT」と主役は揃った。後から活のいい選手たちが追いかけてきている。選手が全力で緊張感を持って試合に臨めば、来季もファンはスタジアムに溢れる。
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